グラフィックデザインの巨匠といわれているピーター・サヴィル

Text : 蜂賀 亨

グラフィックデザインの巨匠といわれるピーター・サヴィル。彼の最も有名な作品Joy Divisionの『アンノウン・プレジャーズ(79年)』は今年リリース40周年を迎え、40周年の限定アナログレコードが発売されたばかり。また、2017年にはカルバン・クラインのロゴのリニューアル、2018年には新たにバーバリーのクリエイティブ・ディレクターになったリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)とバーバリーのロゴとモノグラムをデザイン、つい先日フィレンツェで開催されたSalvatore Ferragamoの2020SSではランウェイでファッションモデルに混じってモデルとして初デビューするなど、ファッション業界をはじめ、その活躍ぶりがますます注目されているピーター・サヴィル。

今回はピーター・サヴィルについて、そして彼に関するいくつかの書籍とDVDを紹介する。

ピーター・サヴィルは1955 年マンチェスター生まれ、1975 年から1978 年までManchester Polytechnic(現在のManchester Metropolitan University)でグラフィックデザインを学ぶ。卒業後1978 年にファクトリーレコードの共同経営者のひとりとなり、ヤン・チョホルトの影響を受けたファクトリーの最初のポスターやJoy Divisionのファーストアルバム『Unknown Pleasures』などをデザインし、ファクトリーレコードのヴィジュアルアイデンティティをアートディレクターとして確立させる。

1979 年にはロンドンへと移り、ファクトリーの仕事をしながらもヴァージンレコードのグループ会社DindiscのアートディレクターとしてKing Crimson、Ultravox、Roxy Music、Peter Gabrielなどのジャケットデザインをする。ファクトリーのアートディレクションと聞くと、マンチェスターのイメージが強いが、実際のファクトリーの全盛期であるハシエンダがオープンした1982年、New Order の「Blue Monday」がリリースされた1983年には彼はマンチェスターではなくロンドンでデザインをしていた。「ファクトリーでの仕事が僕をロンドンへ連れて行ってくれた」とインタビューで彼は語っている。

1983 年Dindisc を離れ自分のスタジオPSA(Peter Saville Associates)を設立。数々のレコードジャケットをデザインをするほか、Yohji YamamotoやWhitechapel Art Galleryなどのファッションやアート関係の仕事なども手掛けるようになる。1990年には金銭的な問題でPSAをクローズし、大手代理店Pentagramにパートナーとして参加するが2年で契約を終了。その後はLAのFrankfurt Balkindに行くが、すぐにアメリカからロンドンへ戻ってくる。

ロンドンに戻ってからしばらくはSohoにあったtomatoのオフィスにデスクをシェアしていた。1995年にドイツで有名なクリエイティブエージェンシーMeiré & Meiréのロンドン支店兼自宅としてMayfairに、ハシエンダのインテリアデザインを担当したベン・ケリーデザインによるペントハウス風の部屋を作り、そこでThe Apartment名義で仕事をするがそこも3年で終了。1999年にスタジオをClerkenwellに移し、2002年には長年一緒に仕事をやってきたHoward WakefieldとSarah Parrisと共にSaville Parris Wakefieldを設立。2009年グラフィックデザインではなくアートプロジェクトを開始するという理由でピーター・サヴィルはSaville Parris Wakefieldを離れて個人で活動を開始する。

2015年10年ぶりにリリースされたNew Orderのアルバム「Music Complete」のアートディレクションはもちろん、2004年にはマンチェスターのクリエイティブディレクターに就任し、マンチェスターにおけるクリエイティブコンサルタントを約10年担当、2010年にはサッカー、イングランド代表チームのユニフォームをデザインするなど、音楽やファッションだけではなく、様々な分野の仕事もしている。

日本では、9月27日から開催される『岡山芸術交流2019』のロゴ(OKがストライプでデザインされた)デザインや、6月24日からはユニクロとのコラボ商品も発売されるなど注目されているが、その一方で彼の話題性や神秘性ばかりが先行し、彼の作品や仕事だったらなんでもカッコイイとか、「さすがピーター・サヴィル」と簡単に称賛するのはどうかとも思うのだが。

ピーター・サヴィルに関するいくつかの書籍とDVD

Designed by Peter Saville』freieze / 2003

2003年5月23日から9月14日までロンドンのデザインミュージアムで開催された展覧会『The Peter Saville Show』にあわせて出版されたピーター・サヴィルの作品集。インタビューや彼がデザインしてきた作品がカタログ的に収録されている。アーカイブや彼のプロフィールや活動などが英語のテキストだが、網羅されており、資料としてはとても貴重な一冊。9ページ目のヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)が撮影した彼のポートレート写真がとてもカッコイイ。

Peter Saville Estate1-127』(JRP|Ringier/2008)

2005 年にスイスのMigros Museumで開催された展覧会と同タイトルの作品集『Peter Saville Estate1-127』。レコードジャケットではなく、彼をアートの視点から捉えた展覧会である会場風景写真に加えて、ファクトリーのポスター、アイデアメモ、指定紙、レコードジャケットで使われた写真、インスタレーション作品、アート作品、UNKNOWN PLEASURESの元ネタとなった天文学辞書など、貴重な127作品が収録されている。印刷もきれいで、数年前までアマゾンで購入可能だったが、現在はプレミア価格になっているようだ。

Art, Fashion and Work for Hire: Thomas Demand, Peter Saville, Hedi Slimane, Hans Ulrich Obrist and Cristina Bechtler in Conversation』(Springer Wien New York/2008)

2007年7月、トーマス・デマンド(Thomas Demand), ピーター・サヴィル(Peter Saville), エディ・スリマン(Hedi Slimane)といった豪華なメンバー3人がベルリンに集まり、彼らのキャリアや仕事、クリエイティブについて論議をした会話録。原本は英語とドイツ語のバイリンガル、2009年には日本語訳版も発行された。10年前とはいえ、こんなに豪華なメンバーが揃って話をするのはとても貴重な時間だったことだろう。この「Art andArchtecture inDiscussion」シリーズを企画して編集したCristina Bechtlerという編集者もとても気になってしまう。

JOY DIVISION /UNKNOWN PLEASURES』 1979

もはやファッションアイコンにもなっているJoy DIivisionのジャケットデザイン。このジャケットのオリジナルは天文学辞典「Cambridge Encyclopaedia of Astronomy」のダイアグラム。こぎつね座にある中性子星CP1919から発信されているパルサー(波動)をダイアグラム化したものをJoy Divisionのメンバーのスティーヴン・モリスが図書館で見つけてきて、それをピーター・サヴィルがジャケットのデザインに使用したもの。オリジナルを白黒反転させているが天文学辞典に掲載されているダイアグラムがほぼそのまま引用された。クレジットにはDesigned by Joy Division, Peter Savilleと表記されている。あの有名なパルサーの波形ダイアグラムをピーター・サヴィルが描いた(作りだした)と思っている人がいるかもしれないが、レコードジャケットに既存のヴィジュアルを使用して、バンド名もアルバムタイトルも入れない斬新なレコードジャケットをアートディレクション・デザインして世の中に出したというのがスゴイということだ。

24アワー・パーティ・ピープル [DVD]

24 HOUR PARTY PEOPLE』DVD 2002 /メディアファクトリー

ファクトリーレコード設立者であるトニー・ウィルソン(本名Anthony Howard Wilson)を中心にマンチェスターがマッドチェスターとなる時代を映像化したもの。ファクトリーレコードをはじめJoy Division、New Order、Happy Mondays、伝説のクラブ「ハシエンダ」など70 年代終わりから92年にファクトリーレコードが解散するまでのマンチェスターにおける音楽ムーブメントやファクトリーレコードのことがよくわかる映画。ピーター・サヴィル役の俳優エンゾ・シレンティがハシエンダのチケットをイベント当日に納品するとか、New Orderの「Blue Monday」のジャケットが印刷コストがかかってしまい「1枚売れるごとに2ペンスの赤字」だといったエピソードも映画の中では出てくる。

SHADOWPLAYERS』 DVD 2006 / ナウオンメディア

『24 HOUR PARTY PEOPLE』は事実を元にした映画だが、この『SHADOWPLAYERS』はトニー・ウィルソン、ピーター・サヴィル、ピーター・フック(Joy Divison/元New Order)、ハワード・ディヴォード(Buzzcocks/magazine)などファクトリーレコードに関わっていた関係者やミュージシャンが自らの言葉で当時を語る貴重なドキュメンタリー映像。ファクトリーの最初のコンピレーションEP『A Factory Sample』は手作りのジャケットでみんなで作業をしたら、当初は1週間くらいでできると思ったのが実際には4 ヶ月かかったという話はいかにもファクトリーらしい。

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