岡田裕子 個展「NADiff Theater ★ Double Feature」レポート

「エンゲージド・ボディ:脳の婚約指輪」(c) OKADA Hiroko, 2019
撮影:大島健一郎 写真提供:東京都写真美術館

text: Daiki Tajiri

作家本人が持つ社会に対しての意見や、人と人とのコミュニケーションを作品で表現したいという思想のもと生み出される彼女の作品は、これまで平面作品からパフォーマンス、写真、映像など様々な手法を用いてつくられ、世界各国で発表され評価されてきた。

恋愛や結婚、出産、子育てなど人間の持つ普遍的な価値をテーマに制作を行う現代美術家岡田裕子。彼女の新刊『DOUBLE FUTURE ーエンゲージド・ボディ/俺の産んだ子』の刊行を記念し、個展「NADiff Theater ★ Double Feature」が、東京・恵比寿にあるブックショップNADiff a/p/a/r/tに併設されているNADiff Galleryにて9月16日(月)まで開催中だ。

幼稚園から高校まで一貫校で過ごすという経験から、大学での急な人や環境が入り乱れる場を経てコミュニケーションに対し関心を持つようになり、また幼少期より絵を描くことをはじめ表現に興味があったことから生まれたという彼女の制作スタンスは、現代社会へのメッセージ性が高いと言われることもあるが、あくまでも等身大の彼女自身の考えや意見をダイレクトに語っている。

というのも、本展覧会に展示された作品を含め彼女が発表してきた作品は、一貫して観賞者の芸術性ではなく、パーソナルな部分に訴えかけているように感じ、それらは商業と隣接するようにも考えられる現代美術のイメージを和らげるとともに、芸術が本来持つ意味を思い起こさせる。

制作活動を始めた時よりコミュニケーションを軸に、自身が持つ価値観をテーマとして起用しながら意欲的に作品を生み出してきた彼女は、1998年に東京都写真美術館にて行われたグループ展「LOVE’S BODYーヌード写真の近現代」への参加を転機とし、芸術世界で彼女自身の立ち位置を把握すると同時に制作の出発点は彼女個人の視点で、そして世界を拡張する意味でフィクションを用い、メッセージを視覚化するスタイルを確立したという。もちろん、このスタイルは本展覧会で展示されている作品にも現れているいるのが分かる。

2016年に発表された架空の伝統を元に生まれたインスタレーション「カラダアヤトリ」をはじめ、彼女の史実にオリジナルのフィクションを混ぜ込んだ興味深い作品はいくつかあるが、今展覧会展示作品の2002年制作の「俺の産んだ子」と新作の「エンゲージド・ボディ」はその中でも彼女のスタイルがより剥き出しに現れている作品だと思われる。

自身の出産、子育ての経験を元に制作されたというドキュメンタリー番組タッチの映像作品「俺の産んだ子」は、一人の男性が先端医療の力を借りて、たった一人で子どもを妊娠、出産するという夢物語を描いている。この作品は、男女ともに持つ本能的に子供を持ちたいという感覚をテーマにしただけでなく、不妊治療が盛んになった社会背景をはじめとした、生命誕生にかける人間の渇望や倫理問題、養子縁組の見地などのテーマも踏襲しており、深いリサーチを元につくられ、フィクションといえど恐ろしいほど信憑性を感じる作品になっている。その説得力あるビジュアルはアイロニカルなディティールも相まって、過去のものだがそうではないような、まるで我々が生活するパラレルワールドを映し出しているかのようにも解釈できるのは面白い。

そして、同時に上映されている臓器再生が自在になった未来を描いた映像作品「エンゲージド・ボディ」。ワイドショーのワンコーナーを彷彿させる雰囲気を漂わる独特なタッチの本作は、前作と同じ時間軸の物語が拡張され発展したもうひとつの世界と考えられると同時に、我々が生活する現代の近未来にも重なるではないかと我々に考えさせるだろう。特に作中に描かれるプロダクトまで形にしてしまい展示している工程は、まさに作品で描かれている世界が我々に近い場所に存在することを予感させる。

また、一貫したテーマや細かい作り込みだけでなく彼女の作品で特徴的なのは、端的にポジティブなメッセージを映像作品として発しているだけでなく、要所要所にアイロニカルなユーモアとして受け取れる箇所が垣間見え、芸術表現の面白さを改めて感じることができるところだ。本展示でもまたそのポイントは強く響いている。

本展覧会では展示作品に関連したパフォーマンス「俺たちの産んだ子」も行われ、記録展示も合わせて鑑賞でき、9月14日(土)には作家自身と東京国立近代美術館主任研究員の保坂健二朗を招きトークショーも行われる。本作品群を含む、表現に対する考えや見解を彼女自身より傾聴できる貴重な機会に是非足を運んでみてはいかがだろうか。


岡田裕子(おかだ ひろこ)
1970年、東京都生まれ。93年、多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業
映像、写真、絵画、インスタレーション、パフォーマンスなど多様な表現を用いて、自らの実体験––恋愛、結婚、出産、子育てなど––を通したリアリティーのある視点で、現代社会へのメッセージ性の高い作品を制作。近年の主なグループ展に「MOTアニュアル2005:愛と孤独、そして笑い」(東京都現代美術館、2005年)、「Global Feminisms」(ブルックリン美術館[ニューヨーク]、07年)、「Lesson 0」(国立現代美術館[果川、韓国]、17年)、「第11回恵比寿映像祭:トランスポジション 変わる術」(東京都写真美術館、19年)、「Compass – Navigating the Future」(アルス・エレクトロニカ・センター[リンツ、オーストリア]、19年)など。ニューヨークやソウル、ジョグジャカルタなど海外でのレジデンスプログラムにも参加。その作品は国内外で高く評価されてきた。ほかにも、オルタナティブ人形劇団「劇団★死期」を主宰、家族で結成したユニット「会田家」などの個性豊かなアートプロジェクトにも関わりながら、幅広い活動を行う現代美術家である。
 


展覧会インフォメーション
岡田裕子「NADiff Theater ★ Double Feature」
2019年8月16日(金)- 9月16日(月)
※休館日:月曜
会場:NADiff Gallery
東京都渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff A/P/A/R/T 地下1F
営業時間:12:00 – 20:00
入館料:無料
HP : http://www.nadiff.com/?p=14998
 


イベントインフォメーション
トークイベント「はじめてのふたり」
9月14日(土) 19:00-20:30(開場 18:45)
出演:岡田裕子 × 保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)
文字通り、互いにトークをするのが初めての2人が、岡田裕子の作品をきっかけにして、あんなことやこんなことについて語り合います。
会場:NADiff a/p/a/r/t
定員:70名
入場料:1,000円


新刊インフォメーション
岡田裕子『DOUBLE FUTURE ーエンゲージド・ボディ/俺の産んだ子』
発行:ミヅマアートギャラリー
発売元:求龍堂
定価:本体価格¥1,800+税 

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